お友達のぶんを持たせるか、持たせないか


小さな女の子は言いました。

「公園でお友達が待ってるの。だからその子の分もください」

私はこう答えました。

「その子に直接渡したいからここに連れてきて」

木と風の香りカフェではお友達の分まで渡しません。ひとりにひとつです。

なぜか。それには3つ理由があります。

ひとつめ。

「誰かが誰かの言いなりにならなきゃいけない理由なんてどこにもないから」

女の子は親切心でお友達の分まで取りに来たのかもしれません。それはいいことです。お友達に食べ物を届けることで自分もお友達もいい気分です。でも、なぜそのお友達は自分で取りに来ないのでしょう。

その女の子はとても急いでいました。なんだか少しお友達の言いなりのように見えました。きっと早くおいしいおやつをお友達に届けたかったのかもしれません。もしかしてお友達に「早めにお願いね」って言われたのかもしれません。そのお友達はもしかしたら食べ物の事は知らなくて、ただ女の子と遊びたくて「早く来てね」って言ったのかもしれません。もしかしたらそのお友達はお母さんやお父さんから子ども食堂に行くことを禁止されているのかもしれません。いろんな想像ができます。

様々な理由で子ども食堂に来る子と来ない子がいます。その理由の裏側まで想像することは難しいし、その想像が正解だとは限りません。まして、ここに来ない子の分を誰かがデリバリーしなきゃいけない理由なんてどこにもないし、デリバリーをする人と、してもらう人で上下関係ができるのも変です。

だからここに来た子には分け隔てなく全員にひとつずつ食べ物を渡し、来ない子の分は渡さないことにしています。

ふたつめ。

「仲間はずれをつくらないため」

今はまだ新型コロナウイルス感染症が心配で小さなカフェを開放できません。だから食べ物はテイクアウトにしてます。子どもたちは袋に入った食べ物をもちかえり、お家や公園のベンチで食べます。

そこにはもしかしたら食べ物を持っていない人もいるかもしれません。美味しそうな食べ物をみて「わたしも食べたいなぁ」と思うかもしれません。そんなときに、誰かが自分の知り合いだけや特定の人だけに食べ物を渡すのを見たら、もらえない人は嫌な思いをすることになります。

もらえなかった人も子ども食堂にいけば、食べ物をもらえます。私もとりに行こう!ってすぐ行動できる人はいいかもしれません。でももし、その場所が子ども食堂から離れていて、まだ小さなヨチヨチ歩きの赤ちゃんが食べたいって我慢できずに泣いてしまったらどうでしょうか。一緒にいるお母さんやお父さんは本当に悲しくなるしこんな風にして、仲間はずれができてしまう事はよくないことです。

だからひとりにひとつずつ。人の分まで多く渡すと、いろんな理由が重なった時に悲しい思いをする人を生んでしまうからです。

みっつめ。

「子ども食堂の本当の意味をしってもらいたいから」

お父さんやお母さんから子ども食堂に行ってはいけないよ、って言われている子どもたちがいます。それはなぜでしょう。もしかしたら、子ども食堂の食べ物が足りなくならないように気を使っているのかもしれません。もしかして、食べ物にアレルギーがあって不安なのかもしれません。もしかして「子ども食堂は恵まれない子どもに食事をあたえるところ」っていう勘違いをしているのかもしれません。もしかして、子ども食堂が遠くて事故やケガが心配で行かせられないのかもしれません。いろんな理由があるはずです。

私は子ども食堂を新しく作ろうとしている人たちに「子ども食堂に行くことを禁止されている子にはどうアプローチしたらいいんでしょうか」って聞かれたことがあってこう答えました。「子どものこっそり力に期待しています」って。なんだか変な答えだけど、こっそりここにきた子が、困りごとを打ち明けてくれて、いろんなサポートにつながったことが何度もあるから、やっぱりこっそり力も大事です。

でもその「こっそり」がバレたとき、怒られてしまうのは子どもたちです。だから子どものこっそり力を頼るんじゃなくて、私たちは子どもたち全員とその親御さんに子ども食堂の存在や意味を正しく知ってもらう努力をします。

ここで働いている人たちは、子どもたちの仲間です。不審者が出たから逃げてきた!とか、転んで血が出ちゃった!とか、先生が理不尽でさ…とか、実はお友達のグループで無視されてる、とか、朝から何もたべてないとか、おうちに帰りたくない…なんていう子どもたちの様々な愚痴やSOSに対し一緒に考える仲間です。だから本当は誰でも来てほしいんです。誰でもっていうのは子どもだけじゃなくて、家族の人もみんなです。

子ども食堂に実際に来ると仲間が増えます。だから、離れた場所で食べ物だけもらうんじゃなくて、実際にここに来てほしいです。

ここまでは、なぜ食べ物をひとりひとつしか渡さないか、を書いたけれど実は決まりを破ることがあります。たとえば「このおやつお母さんにも食べさせてあげたい」とか「小さな兄弟がいて自分だけ食べ物をもらうとケンカになるからもう一つ欲しい」なんていうときにはこの決まりをやぶって内緒で食べ物を多く渡します。

だって決まりを守るだけが正解なら、そんなお仕事はロボットでもできるからです。私たちはぬくもりのあるやりとりや「今日だけ特別」っていう優しさや寛容さを大切にしたいと思っています。


NPO法人木と風の香り

地域の遊び場&子ども食堂 ~愛される子ども時代を~